いきなりOpenFOAM (76)

ドローンのプロペラ周りの流れ(その1)

プロペラに働く力

 ドローン(drone)は英語で蜂を意味していますが、無人航空機の通称として使われています。中でも、複数のプロペラを持ち、空中に浮遊するタイプが近年、急速に普及しています。ドローンの活動限界時間はバッテリーの容量とモーターの消費電力に依存します。また、モーターの消費電力はプロペラの軸動力に依存するため、推進効率の高いプロペラの開発が必要とされます。

 今回から、ドローンのプロペラ周りの流れをOpenFOAMで解析してみます。
 図1にプロペラに働く力を示します。プロペラは回転により、空気を図では左から右に送ります。この際、プロペラには反力(図中F)が働き、これが推力となります。一方、プロペラには回転方向に回転向きと逆向きのトルク(図中T)が働き、これがプロペラを回転させるために必要なトルクとなります。プロペラの解析では、MRF機能を用いて、回転するプロペラ周りの流れを解析します。同時に、プロペラに働く軸方向の力と回転方向に働くトルクとを求めます。つまり、前回までのシーリングファンの解析に、プロペラに働く力とトルクとを出力する機能を追加すれば、プロペラの解析ができます。具体的な方法は次回以降に説明します。

図1 プロペラに働く力

 適当な形状のプロペラをCADで作成し、OpenFOAMで推力とトルクとを求めることを繰り返して、試行錯誤で求めるようなプロペラ形状を開発するという方法もありますが、基礎的な知識があれば、より良い探索が可能となります。そこで、プロペラの推進原理について説明します。

プロペラの推進原理

 回転中のプロペラの翼は、周囲の空気に作用し、空気を加速します。同時に、翼には反作用が働き、これがプロペラの推力となります。ニュートンの第2法則より、運動量の時間変化率は、外力に等しいため、プロペラの推力は、空気に与えられた運動量の時間変化率から求められます。
 プロペラを基準として、単位時間当たりプロペラから作用を受けた空気の質量をm[kg/s]、空気が得た速度をu[m/s]とすると、推力F[N]は、前述の表現を式にした、下記の式で表されます。

 飛行速度をV[m/s]とすると、単位時間に行うプロペラの仕事量は下記となります。

 図2に示すように、プロペラに流入する流速はVで、プロペラ通過後の流速はV+uとなることから、空気が得た運動エネルギの増加分は下記となり、これはプロペラが費やしたエネルギと等価です。

 プロペラの推進効率は、プロペラの仕事量/費やしたエネルギとなるため、(2)式と(3)式とから、推進効率ηは、下記の式となります。

 (4)式から、推進効率ηは、プロペラ前後の流速増加分uに依存し、流速増加分が小さいほど、推進効率は大きくなります。つまり、プロペラ径をできるだけ大きくして、低速で回転させれば良いことが分かります。
 鳥人間コンテストに出場する機体が大きなプロペラを装備しているのはこのためです。ただし、大きなプロペラでは機動性が劣ることと、モーターは低速での回転には向いていないため、効率と機動性やコストとのトレードオフとなります。

図2 プロペラ前後の流れ

 プロペラ設計では、プロペラ径や回転速度を決定し、翼断面形状の決定の順に行います。ただ、専門性がかなり高いため、ここでは、適当なプロペラをモデリングし、OpenFOAMでプロペラの推力とトルクを求めてみます。
 次回は、プロペラをモデリングし、プロペラ周りの流れを解析してみます。

参考文献:JSMEテキストシリーズ 流体力学 日本機械学会

 このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

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