いきなりOpenFOAM (32)

換気効率の評価

解析モデル

 今回はOpenFOAMで換気の良し悪しを評価してみます。換気の良し悪しを評価する指標として、空気齢がよく使われます。空気齢は図1に示すように、流入口から流入した空気がある箇所に到達するまでの時間を言います。一方、空気余命はある箇所から流出口までの時間です。空気齢が小さいということは流入口からの空気が短時間で届いているということになり、その箇所の空気は新鮮な状態ということになります。室内の換気設計では、空気齢の大きな箇所ができないようにすることがポイントとなります。

図1 空気齢と空気余命

 空気齢は流線に沿って、流速の逆数を積分しても得られますが、濃度を室内全体で毎秒1だけ上昇させ、一方、流入口では空気齢を0として、拡散問題を解き、室内の濃度を表示したときに秒単位の空気齢が得られます。
 今回は室内の空気齢初期値を解析時間(時間刻み×サイクル数)として、空気齢に相当するものを計算してみます。
 モデルは図2に示す幅5m、奥行き3m、高さ2mの部屋に右下に縦横500mmの空気流入口を、左上に同じく縦横500mmの空気流出口を設けます。空気は流入口から1m/sで流入し、流出口から流出します。

図2 室内モデル

参考:換気効率(Wikipedia)

XSimでの設定

 始めに流れの解析を行います。XSimにstlファイルをインポートし、サイズをmmからmに変更します。室内全体の解析となるので、再分割領域は設定せずに、図3に示すように、目標ベースメッシュ数自体を大きくします。今回は流速が1m/sと小さいため、解析が容易になるように壁面をすべり壁として、層流モデルを用います。すべり壁のため、レイヤーメッシュの設定は不要です。

図3 メッシュ設定

 図4に示すように、流入口に流速1m/sを、流出口に自然流出入を設定します。物性はAirを選択し、基本設定では乱流のチェックを外します。その他の設定方法については、いきなりOpenFOAM第7回第12回を参考にしてください。

図4 境界条件設定
OpenFOAMでの計算

 XSimでエクスポートしたzip形式の解析ファイルを右クリック→展開として、ファイルを展開します。展開したフォルダ内で、マウス右クリック→端末を開くを選択し、ターミナルを起動します。Allrunファイルに実行権限を与えます。次いで、./Allrunと入力すると、メッシュ分割と計算が自動で行われます。
 OpenFOAMでの計算手順はこれまでと同じですが、ファイル操作などの詳細については、いきなりOpenFOAM第2回第8回を参照してください。

 図5は流線を表示した結果です。流入口からの流れは直進し、室内の奥側の壁面に達した後、壁面に沿って、上昇することがわかります。

図5 室内気流の流線表示
拡散解析の準備と実行

 次に、拡散解析を行います。拡散解析用フォルダ内の0フォルダ内のUファイルを流れ解析の最終サイクルの結果で上書きします。TファイルのinternalFieldは100に、inletはvalueを0に設定します。これで室内の空気齢の初期値は100に設定され、流入口からは空気齢0の空気が流入します。Constantフォルダ内のpolyMeshフォルダを流れ解析のpolyMeshフォルダで上書きします。transportPropertiesファイルの拡散係数を0に、流れによる拡散のみで計算させます。systemフォルダ内のcontrolDictファイルで終了時間、時間刻み、出力タイミングを設定します。
 空気齢の初期分だけ計算させるため、終了時間は100にします。時間刻みは適当に設定して計算させ、クーラン数をモニターで確認してから修正すると、簡単確実です。今回は0.001に設定し、1秒ごとに結果を出力させるために出力タイミングを1000サイクルにしました。
 ファイルの修正が終わったら、scalarTransportFoamを実行して拡散計算を行います。ファイル修正や計算実行の詳細は、いきなりOpenFOAM第27回第28回を参照してください。

ParaViewでの結果の可視化

 計算が完了したら、ParaViewを起動し、変数としてTを選択すると、空気齢が表示できます。図6は、空気齢が60秒と100秒の等値面を表示した結果です。赤色の等値面が空気齢100秒で、図5の流線表示からも想像できるように、流入口側の壁面付近に空気が空気齢の大きな箇所が見られます。半透明の白色の等値面で示す空気齢60秒の領域が室内の大部分を示すことから、この室内の空気齢は1分程度と考えられます。

図6 空気齢60秒と空気齢100秒の等値面

 今回は、OpenFOAMの練習用のため、初期値に空気齢の最大値を設定しましたが、本来の換気効率計算を行うためには、前述のように、室内全体で空気齢が1秒ごとに1増加するようにして定常計算を行う必要があります。また、自然対流も考慮する必要があるため、流れの他に熱と拡散が同時に解けるようにソルバーをカスタマイズする必要があります。
 次回からは自由表面解析にチャレンジしたいと思います。

 このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

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