屋外風環境解析のための精度検証例(1)

 屋外風環境(俗にビル風と呼ばれることもあります)の検討には、風洞実験のほか数値流体解析(CFD)も良く用いられます。CFDはコンピュータの進歩とともに、風環境の評価にも積極的に利用されていますが、結果の信頼性を確保するため、2001年より日本建築学会で計算プロセスの標準化が進められ、2007年に「市街地風環境予測のための流体数値解析ガイドブック」としてまとめられました。なお、このガイドブックは最新の解析技術などを含め再編集され、2020年に「都市の風環境予測のためのCFDガイドブック」としてまとめられています。
 今回は、このガイドブックおよび関連Webに掲載されている「CFD解析の精度検証のための実験データベース」を用い、風洞実験との比較検証を行った事例を紹介します。

 都市の風環境予測のためのCFDガイドブック(データのダウンロードはこちらから)

テストモデル

 今回検証したモデル(図1)は、建物群を想定した街区モデル(ガイドブックのベンチマークケースD)になります。
 このモデルは、実スケールで40m×40m高さ10mの直方体建物が並ぶ街区のなかに、25m×25m高さ100mの高層建物が建つモデルで、1つの街区は20mと30mの道路に挟まれていて、他の面は10mの道路になっています。

図1 テストモデル

 風洞実験での模型は実スケールの1/400となっており、CFDの解析もこの風洞実験に合わせたスケールおよび境界条件で検証します。

計算条件

 計算メッシュは検証対象となる高層建物周辺は細かく、周辺は大きめのメッシュを配置し、総メッシュ数は約62万要素で計算しました。(図2, 図3)

図2 計算メッシュ
図3 計算メッシュ(高層建物周辺)

 また、風向は風洞実験と同様、建物モデルを円柱領域で囲み、その円柱領域を回転させることで風向の変化を再現しました。(図4)

図4 円柱領域と風向角度

 計算領域の一番外側、風洞の天井や壁になる部分は、地表面に相当する部分を除き、滑りなし壁とし、建物表面および地表面は一般化対数則としています。
 流入風速の高さ方向のプロファイルは、地表面粗度区分Ⅲの地域を想定し、流入風の乱流エネルギー(k)は実験値を、乱流散逸率(ε)は乱流エネルギー値をもとに、ガイドラインで示される式により与えました。(図5)

図5 流入風条件

 計算ソルバーはOpenFOAM v1912をベースにソフトフローが独自にカスタマイズしたものを使用しています。
 その他、条件一覧を下表に示します。

計算結果

 各風向での実スケールで地上2mに相当する高さと、地上80mに相当する高さでの風速分布を示します。
 どの風向でも高層建物周辺の風速が周囲より速くなっていますが、特に高層建物に対して斜めに風が吹く場合に、地表面付近での風速がより速くなっていることが分かります。また、風向きが傾くことにより街区の大通りに風が流れるようになることが分かります。

図6 風向0°時の風速分布
図7 風向22.5°時の風速分布
図8 風向45°時の風速分布
風洞実験との相関

 風洞実験との相関は、高層建物周辺の実スケール地上2mに配置した78ポイント(図9)の風速値で評価します。実際の評価には建物高さにおける流入風速(6.65m/s)を基準とした風速比で評価しています。

図9 風速評価点

 風向が0°の各ポイントにおける風洞実験との相関を、横軸に風洞実験結果、縦軸にCFDの結果としてプロットしたものが図10になります。風速比が小さい(風速が弱い)部分で風洞実験よりCFDの結果が小さい値になっているところが多く見られ、相関係数も0.786と少し低い値になりました。これはCFDが建物の風下側で風速を過少評価する傾向にあり、この風向ではその影響が大きく現れる結果となりました。逆に風速比が大きい(風が強い)部分では、風洞実験と同等の結果が得られています。

図10 風向0°における風洞実験結果との相関図

 同様に風向22.5°の場合を示したのが図11です。大きな通りに沿って風が流れるようになったため、建物風下側の影響が小さくなり、全体として相関が向上し相関係数も0.815と多少のずれはあるものの、風洞実験をうまく再現できていると言えます。

図11 風向22.5°における風洞実験結果との相関図

 風向45°の場合の相関係数は0.891と高く、特に高層建物周辺で発生している強風域もしっかりと捉えられていることが分かります。

図12 風向45°における風洞実験結果との相関図
まとめ

 今回は屋外風環境解析の精度検証事例として、比較的単純な形状の建物群が並ぶ街区をモデルに、CFD解析と風洞実験を比較し精度検証を行いました。計算精度の確保には入力条件をしっかり把握し再現することが重要で、実験時の状況や条件を忠実に再現することにより、精度の高い結果が得られることが分かりました。

おことわり
 今回の検討はある一定の条件下でのシミュレーション結果になります。異なる条件では違った結果や傾向になる場合があります。また、このシミュレーション結果は実現象の再現を保証するものではありません