いきなりOpenFOAM (90)

プロペラ風車の流れ解析(その4)

風レンズの設計

 プロペラ型風車では、図1のような周囲に円筒型のカバーがあるものを見かけることがありますが、円筒型のカバーは風レンズと呼ばれ、効率改善効果があると言われています。今回は、つばなしとつば付きの2つの風レンズを設計し、効率改善効果を見てみます。

図1 風レンズ付きプロペラ風車

 参考文献を基に、図2に示す風レンズを設計し、いきなりOpenFOAM第89回で設計した円弧翼のプロペラに組み合わせます。また、風レンズとの隙間が均一になるように、プロペラ翼端を直径2000mmの円でカットします。風洞部分は、いきなりOpenFOAM第87回を利用し、解析モデルを作成し、風レンズはlensという名称でstlファイルに出力します。他の部分はいきなりOpenFOAM第87回と同じ名称でstlファイルに出力します。

図2 風レンズ寸法

参考文献:風レンズ風車の開発と今後の動向
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00561/2009/12-0003.pdf

条件設定と計算

 XSimを用いて、解析ファイルを作成します。図3に示すように、風レンズ表面に相当する領域lens表面に再分割領域とレイヤを設定します。また、回転領域が風レンズと干渉しないように大きさを設定します。それ以外の設定は、いきなりOpenFOAM第87回および第88回と同様です。
回転速度は、いきなりOpenFOAM第89回での結果から、20、25、30、35rad/sとします。回転速度の設定については、いきなりOpenFOAM第69回を参照してください。

図3 再分割領域設定
図4 回転領域設定
風車特性と結果の可視化

 それぞれのケースで計算を行い、postProcessingフォルダ内のforces.datファイルからプロペラに発生するトルクを読み取り、周速比λと出力比Cpを計算すると、図5に示す風車特性が得られます。特性の算出については、いきなりOpenFOAM第88回を参照してください。
図を見ると、風レンズとの組み合わせにより、出力比が上昇することがわかります。特に、つば付き風レンズとの組み合わせでの出力比上昇は著しく、プロペラ単体の2倍以上になることがわかります。風レンズにおいては、つばが効率を左右する重要な部分であることがわかります。

図5 風車特性

 なお、出力比が、いきなりOpenFOAM第86回で説明した、風車の理論効率上限の59%を越えてしまいます。これは、風レンズ内での風速が周囲の風速よりも大きくなる一方、出力比の定義が周囲の風のパワーに対するものであるため、風レンズによる風速増加分が寄与し、見かけ上、出力比が理論効率の上限を超えることになります。

 風レンズによる風速の増加効果を解析結果から見てみます。図6から図8は縦断面の流速分布をコンター表示したもので、気流は図の上から下に流れています。それぞれ、図6はプロペラのみの場合で、図7は風レンズ(つばなし)、図8は風レンズ(つば付き)と組み合わせた場合です。
 風レンズとの組み合わせにより、プロペラ前後での流速が増加することがわかります。このため、プロペラが生み出すトルクが増加したものと考えられます。図7と図8から、風レンズにつばがある場合、つばなしの場合と比べて、風レンズ内での流速が大きく増加することがわかります。

図6 縦断面流速分布(風レンズなし)
図7 縦断面流速分布(風レンズつばなし)
図8 縦断面流速分布(風レンズつば付き)

 風レンズにより流速が増加する理由を探るため、縦断面の静圧分布を見てみます。図9から11は縦断面の静圧コンターで、それぞれ、図9はプロペラのみの場合で、図10は風レンズ(つばなし)、図11は風レンズ(つば付き)と組み合わせた場合です。
図9と図10を比較すると、風レンズとの組み合わせにより、プロペラ前後での圧力差が大きくなることがわかります。また、図11から、つば付きの風レンズでは、プロペラ前後での圧力差がさらに大きくなることがわかります。

図9 縦断面静圧分布(風レンズなし)
図10 縦断面静圧分布(風レンズつばなし)
図11 縦断面静圧分布(風レンズつば付き)

 今回は「風レンズ」のモデルを作成し、風レンズの効果を比較検討しました。次回からはサボニウス風車の流れ解析を行っていきます。

 このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

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