いきなりOpenFOAM (51)

ピタゴラスの盃

解析モデルとメッシュ作成

 ピタゴラスの盃とは、底にU字管を組み合わせた盃で、酒がある高さまで満たされるとサイフォン効果により、盃の底が抜けたかのように酒が漏れてしまうというものです。ピタゴラスが考案したと言われています。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%BF%E3%82%B4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%97
 今回は、OpenFOAMでピタゴラスの盃を再現してみます。

 始めに、モデルを設計します。図1に示すように盃の形状を内径100mm、高さ150mmとします。液面が底のU字管の高さを超えると、サイフォン効果で液体がU字管を通って流れ出します。盃の底には、流出の様子が分かるようにU字管につながる適当な空間を設けます。

図1 解析モデル形状・寸法

 上記のモデルをCADで設計し、図2に示すように領域に分けます。図2の赤色の領域がinletで流入口、青色の領域がoutletで流出口、黄色の領域がatmosphereで大気開放、灰色の領域がwallsで壁面とします。atmosphereとU字管の出口とは直接つながらないように段差を設けます(U字管から出た液体が領域atmosphereに流出しないようにするため)。次に、各領域をstlファイルとして出力します。

図2 領域名を設定

 ブラウザでXSimを開き、先ほど出力したstlファイルをインポートし、スケールの変更を行います。次に、メッシュ設定では、図3に示すように、U字管を囲むように再分割領域を設定します。また、領域wallsにはデフォルト設定で境界層を設けます。次に、エクスポートで解析ファイルを出力、展開した後、端末からコマンド./Allrun –mでメッシュを生成します。

図3 メッシュの設定
ファイルの修正

 解析は前回の「トリチェリの定理」あるいは「瓶からの液体の流出」用のファイルを流用します。コピーしたフォルダ内の計算結果やalpha.waterファイルやpolymeshフォルダを削除します。次に、先ほどのメッシュ生成で出力されたpolymeshフォルダを解析ファイル内のconstantフォルダ内に移動します。0フォルダ内のUファイルを図4に示すように修正します。流入口には体積流量0.03m3/sを設定します。盃内の液面高さの時間変化はここで設定した流入速度とモデル形状とから計算できます。適当な解析時間で現象が再現できるようにモデル形状とあわせて設定してください。
 systemフォルダ内のsetFieldsDictファイルを設定します。setFieldsDictファイルでは初期状態での液体が占める領域を設定します。図5に示すようにboxToCellで液面高さ50mmまで液体を満たします。このままでは、U字管の底につながる部分にも液体が充填され、この部分が抜ける際に、液体を吸い上げてしまいます。そこで、この部分を空にします。具体的には、図5の後半のcylinderToCellでU字管内の空間に空気を設定します。setFieldsDictファイル設定の詳細については、いきなりOpenFOAM第45回を参照してください。

図4 0/Uファイルの設定
図5 setfieldsDictファイルの設定

 次に、controlDictファイルを図6に示すように修正します。controlDictファイルでは解析終了時間や計算結果の出力間隔などを設定します。controlDictファイル設定については、いきなりOpenFOAM第36回を参照してください。

図6 controlDictファイルの設定

 ファイルを修正・上書き保存したら、端末で、setFields、interFoamの順にコマンドを入力すると、計算が始まります。

結果の可視化

 計算が終了したら、paraFoamと入力し、ParaViewを起動して結果を可視化します。ParaViewの使い方や液面の表示については、いきなりOpenFOAM第34回を参照してください。
 図7は、流入開始から7秒後の液面で、液体がU字管の上部に達し、サイフォン効果が始まりかけています。図8は、流入開始から20秒後の液面で、サイフォン効果により液体が底から流出し続けています。図9は液面変化を動画にしたもので、液体の流入からサイフォン効果により盃のそこから流入し続ける様子を観察できます。

図7 流入開始から7秒後の液面
図8 流入開始から20秒後の液面
図9 液面の変化(アニメーション)

 次回は、水時計と呼ばれる、容器に満たされた液体の高さから時間を計測する装置をOpenFOAMで再現してみます。

 このページでは、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

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