いきなりOpenFOAM (22)

レイノルズ数が抗力係数、揚力係数へ及ぼす影響

レイノルズ数

 抗力係数、揚力係数は翼の反り率や迎角により変化しますが、流体の種類や流速や翼弦長にも影響されます。流体の種類や流速や翼弦長の影響をまとめて表す指標がレイノルズ数です。レイノルズ数は下記の式で定義される無次元数です。流速が大きいほど、物体が大きいほど、また、流体の粘性が小さいほどレイノルズ数は大きくなります。

ここで、Uは代表流速[m/s]、Lは代表長さ[m]、νは動粘性係数[m2/s]、ρは密度[kg/m3]、μは粘性係数[Pa・s]です。粘性係数は力の伝わりやすさを表す指標ですが、同じ粘性係数でも流体の密度が小さければ、密度の小さい流体の方が大きく変化します。この効果を考慮したものが動粘性係数で、粘性係数との間には、動粘性係数=粘性係数 / 密度 の関係があります。例えば、水の粘性係数は空気よりも大きいものの、水の密度は空気の密度の約800倍もあり、動粘性係数は逆に空気の方が大きくなります。結果として、同じ寸法、流速であれば、空気中でのレイノルズ数は水中でのレイノルズ数の1/10以下となります。

 レイノルズ数の式を以下のように書き換えると、レイノルズ数は慣性力と粘性力との比であることがわかります。一般にモデル実験が成り立つ条件は、物体が相似形状であることと、力の比率が同じであることが必要となります。流体の実験でレイノルズ数が同じであるということは、慣性力と粘性力の比を一致させることになります。

解析モデル

 解析モデルは前回(第21回)作成したモデルを使います。

図1 解析モデル

 前回のジューコフスキー翼の解析でのレイノルズ数を計算すると、L=150mm、U=5m/sでRe=47,380となります。そこで、U=10m/s、1m/s、0.1m/sとすることで、レイノルズ数が約95,000、9,500、950での解析を行い、レイノルズ数が抗力係数、揚力係数に及ぼす影響を見てみます。

条件の変更

 これまで、条件設定は主にXSimを利用してきましたが、すでにある条件設定の一部を変更する場合などは、OpenFOAMの条件設定ファイル(テキストファイル)を直接変更すると手早く計算ができます。今回は流速の条件を変更してみます。
 まずは、すでにある計算フォルダ(ディレクトリ)を丸々コピーして新たな計算ケースフォルダを作ります。(このフォルダの条件を変更し、計算実行もこのフォルダになります)。
 流速は、計算を実行するフォルダ内にある、0フォルダ内のUファイルを書き換えることで変更できます。Uファイルは流速に関連する条件設定ファイルになります。0フォルダ内のUファイルをエディタで開いて、図2の赤い枠で囲まれた箇所を(流速 0.0 0.0)と書き換えることで、初期条件(internalField)と境界条件(boundaryFieldのinlet)を変更します。ちなみに括弧内は、(x軸方向速度 y軸方向速度 z軸方向速度)の並びで、uniformは一様という意味です。

図2 初期条件、流入境界条件の変更

 また、抗力係数と揚力係数の算出に代表流速を使っているため、この箇所も修正します。計算ケースフォルダの中のsystemフォルダ内にあるcontrolDictファイルを、図2に示すように赤い枠で囲まれた箇所のmagUInf以下の値を流速に合わせます。

図3 代表速度の変更

 流速の条件変更は以上です。今回の例では流速が10m/sの場合を説明していますが、他の流速も同様に修正し計算します。なお、流速に応じてy+の値を適切に設定することや、レイノルズ数950では本来層流で計算するべきであることなどについては、この計算では考慮していません。

※条件設定ファイルは、OpenFOAMのバージョンによって異なる場合があります。

OpenFOAMでの計算

 これまでは、XSimからエクスポートしたファイルを解凍し、そのフォルダで計算を実行していました。今回はすでに計算ケースフォルダを手作業で作成していますので、そのフォルダへ移動し計算を実行します。
 もし、計算済のフォルダをコピーした場合、そのままでは計算が流れない場合があります。その場合は一旦、./Allcleanを実行し、計算済のファイルを消去した後で、./Allrunで計算を始めます。
 その他、OpenFOAMでの計算手順はこれまでと同じですが、ファイル操作などの詳細が知りたい場合は、いきなりOpenFOAMの第2回第8回を参照してください。

ParaViewでの結果の可視化

 計算が完了し、ターミナルが入力待ちとなったら、paraFoamと入力し、ParaViewを起動します。解析結果が読み込まれた状態で起動するので、propertiesのApply(緑色のアイコン)をクリックすると、解析結果が表示されます。
 図4から6がレイノルズ数950、9,500、95,000での流速分布になります。レイノルズ数が大きくなると、翼上面での流れは翼面に沿った流れになることがわかります。

図4 レイノルズ数950での流速分布
図5 レイノルズ数9,500での流速分布
図6 レイノルズ数95,000での流速分布

 図7から9がレイノルズ数950、9,500、95,000での静圧分布を示しています。レイノルズ数が大きくなると、翼上下での相対的な静圧差は大きく、翼前後での相対的な静圧差は小さくなることがわかります。つまり、レイノルズ数が大きな流れでは、翼に沿った流れになり、揚力は大きく、また、抗力は小さくなると考えられます。

図7 レイノルズ数950での静圧分布
図8 レイノルズ数9,500での静圧分布
図9 レイノルズ数95,000での静圧分布

 次に、postProcessingフォルダ内のforceCoeffs.dat内の抗力係数Cdと揚力係数Clを比較してみたのが図10です。図を見ると、レイノルズ数が大きくなると、抗力係数が小さく、また、揚力係数が大きくなることがわかります。

図10 レイノルズ数の違いによる抗力係数、揚力係数の変化

 さらに、レイノルズ数の抗力係数、揚力係数への影響を速度境界層の形状から検討してみます。速度境界層とは物体表面の流速の遅い領域のことで、各種定義がありますが、今回は主流流速の99%となる流速までの領域として求めてみます。ParaViewで速度コンターを表示させ、コンタースケールの下限を主流流速の98.5%の流速に、上限を同様にして99.5%の流速に設定すると、主流流速の99%の値を境に青色が速度境界層に、それ以外は赤色に分かれます。コンタースケールの修正については、いきなりOpenFOAM第4回を参考にしてみてください。

 図11から13がレイノルズ数950から95,000での速度境界層を示したものです。図を見ると、レイノルズ数が大きくなると翼上面の速度境界層は薄くなることがわかります。つまり、流れから見た翼断面形状は速度境界層の形となっていると考えると、レイノルズ数が大きくなるに従い、流れから見た翼断面形状は本来の形状に近づくため、揚力係数が大きく、抗力係数が小さくなるものと考えられます。
 パソコン用のファンや換気扇などのレイノルズ数は概ね50,000程度であり、翼断面形状が流れに大きく影響することはないため、コスト面から平板を湾曲させたような翼が多く使われています。

図11 レイノルズ数950における速度境界層
図12 レイノルズ数9,500における速度境界層
図13 レイノルズ数95,000における速度境界層

 今回は、すでにある計算条件ファイルを修正し、ジューコフスキー翼の抗力係数と揚力係数がレイノルズ数の違いでどう変化するかを検証してみました。条件設定の部分でも触れましたが、レイノルズ数950は本来層流で計算するべきものになります。次回はレイノルズ数950のケースを層流計算と乱流計算で比較してみます。

 今回、各アプリケーションの操作説明は省略しています。FreeCADの具体的な操作については、いきなりOpenFOAM第5回および第7回、OpenFOAMでの計算実行は第8回、ParaViewの操作については第3回第4回および第8回を参考にしてみてください。

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