最適設計で見つかる選択肢と性能限界
最適設計は、設計対象に対して一つの“正解”を求めるのではなく、複数の条件での最適解を同時に提示できる点に特徴があります。さらに、設計条件を広く探索することで、性能としてどこまで到達できるのか=限界を把握できるのも大きなメリットです。
この記事では、例としてドローン用プロペラを取り上げ、推力とトルクという相反する指標を対象に、最適設計がどのように役立つかを紹介します。
最適設計とその手法
 最適設計には「単目的最適」と「多目的最適」があります。
・単目的最適:ある一つの指標を最大化または最小化する
・多目的最適:複数の指標を同時に考慮し、バランスを取る
ドローン用プロペラでは、推力を大きくするほどトルクも増加するというトレードオフがあるため、多目的最適に分類されます。
ここでは「遺伝的アルゴリズム」を用いて設計探索を行いました。これは生物進化を模したアルゴリズムで、優れた設計条件を残しつつ次世代に引き継ぐことで、段階的により良い解を導きます。サンプル数が膨大になるため、今回はCFD解析から構築したサロゲートモデルを活用し、効率的に探索を進めました。

得られる結果ー選択肢と限界の把握
 プロペラのそり率と傾き角を変化させた結果、パレート解と呼ばれる複数の最適解が得られました。
 このパレート解から、推力を優先する設計や、トルクを抑える設計、さらにはそれらがバランスしている設計などを選択することができます。つまり、「最適」という名称ではありますが、目的に応じて、様々な設計パターンを検討できる点が、最適設計の大きな利点です。

さらに、パレート解の分布を見ることで、設計対象の性能としての到達点=限界を把握できます。「これ以上推力は望めない」「この範囲ならトルクを抑えられる」といった指標は、製品設計の意思決定に直結します。

検証と理解の深化
サロゲートモデルで得られた解をCFD解析で検証したところ、結果は良く一致し、最適設計の有効性が確認できました。さらにCFDでは流れを可視化することによって、なぜその条件が良いのかを視覚的に理解でき、単なる数値結果にとどまらない“設計原理の洞察”を得ることができます。


まとめ
最適設計を活用することで、複数の設計解を同時に把握でき、性能の限界を明確にできるという利点があります。これは効率化や意思決定の支援にとどまらず、設計対象の可能性を多角的に探るための有力な手段となります。
 特にCFDを利用する設計では、以下のような分野で有効性が高いといえます。
• プロペラ・ファン・タービン翼:推力や効率を高めつつ、トルクや騒音を抑える設計
• 熱交換器・配管システム:伝熱性能と圧力損失のバランスを取る設計
• 換気・空調ダクト:室内の快適性とエネルギー消費の最適化
• 風力や水力タービン:高効率と耐久性、キャビテーション抑制の両立
このように、性能向上と損失低減がトレードオフとなる設計では、最適設計は「複数の最適解」と「性能の限界」を同時に示す強力なツールとなります。単なる一つの答えを求めるのではなく、設計の幅と到達点を可視化できる点が、最適設計のメリットと言えます。
おことわり
 掲載した計算結果は、仮想の条件でシミュレーションを行った結果であり、実際の状況を再現したものではありません。

