スポット空調による作業環境改善の効果予測

 工場の作業環境を考える際には、作業動線の効率だけでなく、「音・熱・光」といった環境要素も重要です。近年は気温上昇の影響で、特に熱対策が大きな課題となっています。2025年6月には労働安全衛生規則が改正され、WBGT(暑さ指数)が28℃以上、または気温が31℃以上で一定時間以上作業を行う場合、熱中症対策が義務化されました。

 今回は、高発熱機器を持つ工場を対象に、スポット空調を導入した場合の作業環境改善効果を予測した事例をご紹介します。

工場の概要と条件

 対象となった工場は、床面積136.5㎡、天井高さ4.5mの空間に、表面温度80℃の生産装置が3列並ぶ環境です。外気による換気は約130回/hと十分に確保されており、外気温30℃・湿度60%を仮定すると、換気だけでも室温低下の効果が期待できる状況です。

 ここで検討した改善案は、作業者がいるエリア(作業エリア)にスポット空調を導入すること。吹き出し温度は20℃、風量は300㎥/hを想定しました。

図1 解析モデル
改善効果のシミュレーション結果

 シミュレーションは、スポット空調を導入する前後の2パターンで実施しました。いずれのケースでも、外気流入側(作業エリアA)は温度が低く、排気側(作業エリアB)に行くにつれて装置の発熱の影響で温度が上昇する傾向が見られました。

・スポット空調導入前

 外気導入側の作業エリアAでは約33℃、WBGTは27.6℃で基準値は下回りますが、排気側の作業エリアBでは温度40℃前後、WBGT 30.8℃と高く、労働安全衛生規則の対策義務が発生。環境省の指針でも「厳重警戒」に該当し、熱中症リスクが非常に高い状態でした。

図2 スポット空調導入前の温度分布(左)とWBGT分布(右) (床上1.5m)
図3 スポット空調導入前の温度分布(左)とWBGT分布(右) (断面)

・スポット空調導入後

 スポット空調導入することにより、流入側はさらに改善され、作業エリアBでも温度が31℃、WBGT 26.4℃と大幅に低下。基準値をクリアし、環境省の指針上も「厳重警戒」から「警戒」へと改善できました。

図4 スポット空調導入後の温度分布(左)とWBGT分布(右) (床上1.5m)
図5 スポット空調導入後の温度分布(左)とWBGT分布(右) (断面)
まとめ

 この事例から、スポット空調を導入することで作業エリアの熱環境を大きな改善できることが確認できました。さらに、外気温の上昇や風量の増加といった条件を変えてシミュレーションすることで、さまざまな運用シナリオを検討できます。

 また、今回のような熱環境改善だけでなく、有害物質の拡散抑制や粉じんの飛散防止など、換気や空調が関わる幅広い課題に対しても、計画段階での予測と対策が可能です。

<参考サイト>

厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」パンフレット

環境省 熱中症予防情報サイト

おことわり
 掲載した計算結果は、仮想の条件でシミュレーションを行った結果であり、実際の状況を再現したものではありません。