解析作業を効率化する – 自動化ツール開発事例
オープンソースの熱流体解析ソフト「OpenFOAM」は、ライセンス料が不要で自由にカスタマイズできる利点がある反面、市販ソフトウェアのように整備された入出力環境やマニュアルがなく、効率よく使いこなすには高い専門知識が求められます。
そこで今回紹介するのは、OpenFOAMを使った屋外風環境解析を、専門知識がなくても効率的に行える自動化ツール(専用プリプロセッサ)の開発事例です。本ツールは、日本建築学会「都市の風環境予測のためのCFDガイドブック」に準拠した手法をベースにしています。
開発のポイント
開発にあたり、下記の方針を重視しました。
・設定はテキスト編集ではなく、ダイアログ形式で簡単に入力できる
・専門用語ではなく、風環境解析分野で一般的に使われる用語を採用
・メッシュ作成や条件設定は極力自動化
・複数ソフトを併用せず、1つのツールで完結


作業フォルダの自動設定と建物形状の取込み
計算に必要なファイル類は、一般的に、解析内容が近いOpenFOAMのチュートリアルからコピーし設定しますが、本ツールでは、作業フォルダ設定後にテンプレートを出力できるようにしました。これにより、新たに作業フォルダを作る必要がなく、ユーザーに依存せず、同じ環境を誰でも再現することができます。
建物形状はCADソフト等で作成しインポートします。対象となる建物と、周辺建物を分けて登録することで、メッシュ作成時の粗密を自動で判断できるようになっています。

解析領域とメッシュ作成
解析領域は、インポートした対象建物と周辺建物のエリアを自動認識し、計算上必要な外部領域(建物などが無い部分)を自動的に作成し、全体の解析領域としています。また、風洞実験のターンテーブルに相当する回転領域も自動設定し、ユーザーがモデルに応じて領域の調整や設定をする作業は必要ありません。
メッシュ設定は、基準となるメッシュ幅を設定するのみで、細分化領域や、計画建物周りのメッシュ幅を自動調整します。解析領域と併せて、図4に示すダイアログで自動設定結果が確認できるほか、任意の値に変更することが可能です。出力ファイルは図5に示すようなテキスト形式で、従来はこのテキストを直接編集し設定していましたが、それらの作業が不要となりました。
メッシュの作成はOpenFOAMを起動して実行しますが、通常のコマンドラインでの実行ではなく、ツールのボタン1つでメッシュ作成を実行できるようになっています。




条件設定と16風向分割
ユーザーが設定しなければいけない条件として、基準風速と基準高さがあります。本ツールでは、図8のダイアログで設定し、それらの情報から図9のような計算用の条件ファイルを出力します。その他の境界面は屋外風環境用にプリセットしてあるため、通常は設定する必要はありませんが、個別に設定することも可能です。
屋外風環境の計算は通常16方位の風向で計算を行います。そのため、計算条件ファイルも16ケース分必要になりますが、最初に設定した条件をもとに、16方位分の計算ファイルを一括で出力します。


計算実行
メッシュ作成時と同様、計算もOpenFOAMで実行しますが、通常、コマンド入力で計算を実行するものを、本ツールのボタン1つで計算できるようにしています。
デフォルトの設定では、16方位を順番に計算してゆきますが、4風向ずつ4台の計算機や、スケジュラー実行など、ユーザーの環境に応じてカスタマイズできるようになっています。
風環境評価(結果の可視化)
風環境評価は、日本で利用されている風工学方式と村上方式の風環境指標(尺度)で、16風向の計算結果と風向の出現頻度などのパラメータを記載したcsvファイルを読み込み、最終的なアウトプットとなる、風環境ランク(評価結果)を算出します。なお、この評価プログラムはOpenFOAMからは独立したオリジナルのプログラムとなっていますが、OpenFOAMの計算結果があるコンピュータで実行するため、ファイルの移動などは必要ありません。
結果の可視化にはParaViewを利用しますが、バックグラウンドでの処理となるため、ユーザーの操作は不要です。



まとめ
今回紹介した自動化ツールは、屋外風環境評価に特化することで、OpenFOAMの操作や具体的な評価方法を知らないユーザーでも利用可能なものとなりました。また、OpenFOAMの熟練者であっても、ファイルの作成や条件設定の手間を大幅に削減でき、結果的に解析時間の短縮につながりました。
今回の事例は屋外風環境でしたが、送風機の特性解析や自動車の空力解析など、解析対象のスケールが大きく変わらず、条件を変えて多数の計算を行う場合にも、同様の効果が期待できます。また、今回の事例はPythonで構築したものでしたが、表計算ソフトのマクロ機能などでも同様の仕組みを構築することができます。
おことわり
掲載した計算結果は、仮想の条件でシミュレーションを行った結果であり、実際の状況を再現したものではありません。